「術前訪問、何を話せばいいかわからなくて……気づいたらチェックリストを読み上げるだけで終わってしまった」
新人オペ看護師がよく口にする言葉です。
でも術前訪問は、チェック項目を埋めるだけの「確認作業」ではありません。
手術を前にした患者と看護師が直接関係を築く、手術室看護の根幹となる時間です。
ここでの関わり方が、手術中の安全管理と患者の安心感を大きく左右します。
この記事では、術前訪問の目的・流れ・確認項目・患者への声かけのコツ・よくあるミスまで、実践ですぐ使える形で解説します。
新人オペ看の「はじめての術前訪問」にも、ベテランの振り返りにも活用してください。
- 術前訪問の目的と「なぜやるか」の本質
- 訪問のタイミング・事前準備・流れ(5ステップ)
- 確認すべき項目リスト(基本情報・身体的確認)
- 患者への声かけ・話し方のコツとNG例
- 新人がやりがちなミスと防止策
術前訪問の目的と意義——「ただの確認作業」で終わらせてはいけない理由

術前訪問を「情報収集のためだけに行く」と思っている新人オペ看は少なくありません。
でも本来の目的はもっと広く、深いものです。
①患者情報の収集・アセスメント
患者の全身状態・既往歴・アレルギー・義歯の有無・皮膚状態など、手術中の安全に直結する情報を直接確認します。
カルテに記載がない情報を患者本人から得られるのは、術前訪問だけです。
②患者の不安の軽減——「知らない人に手術される恐怖」を和らげる
手術を翌日に控えた患者の多くは、大なり小なり不安を抱えています。
「手術室の看護師が顔を見せに来てくれた」という事実だけで、患者の安心感は大きく変わります。
情報収集より先に、まず「あなたのことを気にかけている」というメッセージを届けることを意識しましょう。
③手術室側の準備を整える
アセスメントした情報をもとに、手術体位・器械・薬品・緊急時対応の準備を整えます。
「この患者さんは関節の可動域制限がある」「アレルギーがある」という情報は、器械出し・外回りの準備に直接影響します。
④術後訪問・継続ケアへのつながり
術前に関わったスタッフが術後も訪問することで、患者はケアの継続性を実感できます。
「あのときの看護師さん」という記憶が、術後の信頼関係の土台になります。
「術前訪問で少し話しただけなのに、手術室に入ったとき患者さんが”来てくれたんですね”と笑ってくれました。あの瞬間、術前訪問の意味を体で理解しました。」
手術室勤務3年目のオペ看護師
術前訪問のタイミングと事前準備——訪問前に整えておくこと

「いつ訪問すればいいか」「何を準備してから行けばいいか」——これを曖昧にしたまま病棟に向かうと、訪問の質が半分以下になります。
いつ行くのがベストか——前日午後が理想な3つの理由
原則は手術前日の午後です。
前日訪問が理想的な理由は、患者の術前処置(絶食・剃毛など)が完了しているからです。
かつ翌日の手術に向けて患者自身も気持ちを整えている時間帯でもあります。
前々日に訪問する施設もありますが、情報が古くなるリスクがあります。
また夕食前・消灯前の時間帯は患者が落ち着いている場合が多く、訪問に適しています。
事前の電子カルテチェック——「訪問中に気づく」では遅い
訪問前に必ず電子カルテで以下を確認してから病棟へ向かいましょう。
訪問中に「カルテを見てくれば良かった」とならないための準備です。
- 術式・麻酔方法・予定手術時間
- 診断名・既往歴・現病歴
- アレルギーの有無(薬剤・食物・ラテックスなど)
- 内服薬(特に抗凝固薬・血糖降下薬)の休薬状況
- 検査データ(Hb・Plt・凝固系・感染症)
- 禁忌事項・注意事項(DNR指示・宗教上の制限など)
訪問前の準備物
- 術前訪問記録用紙(または電子入力端末)
- チェックリスト(確認項目一覧)
- 病棟用名札(手術室の白衣のままでも可・施設ルール確認)
術前訪問の流れ——入室から退室まで5ステップ

「どんな順番で進めればいいか」が明確になるだけで、訪問中の焦りが消えます。
以下の5ステップを基本の型として身につけましょう。
Step1|病棟師長・担当看護師へ挨拶——「勝手に入室」は絶対NG
患者室へ直接向かう前に、必ず病棟のスタッフステーションへ立ち寄り、担当看護師に「術前訪問に伺いました」と声をかけましょう。
患者の現在の状態(処置中・休息中など)を確認することが礼儀であり、安全でもあります。
Step2|患者室へ入室・自己紹介——最初の10秒で印象が決まる
入室したら、まず笑顔で自己紹介をします。
「明日の手術を担当する手術室の○○と申します」と名前を名乗り、訪問の目的を一言で説明しましょう。
このとき、必ず患者の目線に合わせて座って話すことを意識してください。
立ったまま話すと「事務的」な印象を与え、患者が心を開きにくくなります。
| NG例 | OK例 |
|---|---|
| 「明日手術担当の者です。確認があって来ました」 | 「明日○○さんの手術を担当させていただく、手術室の○○と申します。少しお時間いただいてもよいですか?」 |
| 立ったままチェックリストを手に持って話す | 椅子を引いて座り、患者と目線を合わせてから話し始める |
| 名前を名乗らずに確認項目から入る | 「明日、私が責任をもってそばにいます」と名前を伝えて締める |
Step3|情報収集・アセスメント——「尋問」にならない聞き方の技術
チェックリストに沿って確認を進めますが、「尋問」にならないよう会話の流れを大切にしましょう。
カルテで確認済みの内容は「○○とカルテに書いてありましたが、合っていますか?」と確認形式で聞くと、患者の負担が減ります。
Step4|手術室の流れを説明——「未知の恐怖」を言葉で消す
患者が最も不安を感じるのは「手術室の中で何が起きるかわからない」という未知への恐怖です。
「明日の○○時頃にお迎えに来ます」「手術室に入ったら、まず点滴を確認します」と具体的に説明することで、未知の恐怖が大きく和らぎます。
Step5|傾聴と締めの一言——「明日担当します」の一言が最も効く
最後に「何か心配なこと・気になることはありますか?」と開かれた質問を投げかけましょう。
患者が自分のペースで話せる場を作ることが大切です。
退室前には「明日、責任を持って担当します」と一言添えると、患者の安心感が格段に高まります。
術前訪問で確認すべき項目リスト——カルテに載っていない情報をどう取るか

電子カルテに書いてあることは事前に確認済みのはずです。
術前訪問で本当に価値があるのは、カルテには書かれていない患者の実情を直接確認することです。
基本情報・全身状態
| 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 氏名・年齢・術式 | 本人確認はフルネームで(「○○さんですか?」ではなく「お名前を教えてください」) |
| 麻酔方法 | 全身麻酔か局所麻酔かで確認項目が変わる |
| 既往歴・手術歴 | 前回の麻酔での問題(悪性高熱症など)を必ず確認 |
| アレルギー | 薬剤・食物・ラテックス・金属すべて確認 |
| 内服薬・休薬状況 | 抗凝固薬・糖尿病薬の休薬を必ず確認 |
| 絶飲食の状況 | 「何時から飲んでいないか」を具体的に確認 |
手術に直結する身体的確認事項
- 義歯・コンタクトレンズ・補聴器:全身麻酔時は必ず外す。前日確認で対応できるよう早めに伝える
- 皮膚の状態:褥瘡・皮疹・傷口の有無(体位固定時の圧迫リスクに影響)
- 関節可動域・体位制限:頸部・腰椎の制限がある場合、体位固定の準備が変わる
- 体格・BMI:肥満患者は体位固定具・手術台の耐荷重を事前確認
- 静脈ラインの挿入部位:既存ルートの確認と追加ライン確保の必要性
- 爪・ネイル:SpO₂モニターへの影響。前日に除光液を準備できるよう伝える
患者への声かけ・話し方——訪問の質を決める「最初の一言」

同じ確認項目を聞いても、話し方ひとつで患者の安心感は大きく変わります。
「ちゃんと気にかけてもらえている」と感じてもらえるかどうかが、術前訪問の本当の評価軸です。
信頼を築く5つのポイント——「情報収集」より先に「関係」を作る
- 座って目線を合わせる:立ったまま話すと圧迫感が出て、患者が萎縮しやすい
- 患者の名前を呼ぶ:「○○さん」と名前を呼ぶだけで、患者は「ちゃんと見てもらえている」と感じる
- 手術の流れを具体的に伝える:「明日○時頃に迎えに来ます」「最初にこうします」と段取りを説明する
- 開かれた質問を使う:「何か心配なことはありますか?」と聞くことで、患者が話しやすくなる
- 最後に名前を伝える:「明日担当するのは私です」という一言が患者の安心の拠り所になる
そのまま使える声かけフレーズ集
「何と言えばいいかわからない」という新人のために、実際の場面で使えるフレーズをまとめました。
- 入室直後:「○○さん、突然お邪魔してすみません。明日の手術を担当させていただく手術室の○○と申します」
- 訪問目的を伝えるとき:「明日の手術のために、少しだけ確認させていただいてもよいですか?10〜15分ほどで終わります」
- 不安を確認するとき:「手術のことで、気になっていることや心配なことはありますか?どんな小さなことでも聞かせてください」
- 手術室の流れを説明するとき:「明日の朝○時頃にお迎えに来ます。手術室に入ったら、まず体の確認をして、それから麻酔科の先生が来ます」
- 退室前の締め:「明日、私がずっとそばにいますので安心してください。何かあれば遠慮なく声をかけてくださいね」
避けるべき言葉・態度
- 「絶対大丈夫です」:根拠のない保証は逆効果。「一緒に頑張りましょう」に言い換える
- 早口でチェックリストを読み上げるだけ:尋問のような雰囲気になり、患者が萎縮する
- 立ったまま話す:「早く終わらせたい」という印象を与えてしまう
- 「それは先生に聞いてください」で全て振る:言えることは答え、言えないことは「確認して伝えます」と伝える
- 専門用語のまま説明する:「全麻」「挿管」などは患者には通じないことが多い
新人オペ看がやりがちな4つのミスと、防止策

「ちゃんとできていると思っていたのに、後から確認漏れが発覚した」——術前訪問の失敗は、手術中の安全に直結します。
よくあるミスを先に知っておきましょう。
①確認漏れが起きる
会話に集中するあまり、チェック項目を飛ばしてしまうことがあります。
訪問後に必ずチェックリストを見直す習慣をつけましょう。
訪問中にリストを手元に置き、確認しながら進めることを恥ずかしがる必要はありません。
②患者に伝わっていない説明をしている
専門用語を使いすぎると、患者が「わかったふり」をしてしまいます。
説明後に「今の説明でわかりにくいところはありましたか?」と必ず確認する癖をつけましょう。
熟練ナースが実践している一言ルール:「繰り返していただけますか?」ではなく「私の説明はわかりやすかったですか?」と自分を主語にして聞く。
こう聞くことで、患者が「わからなかった」と言いやすくなります。
看護師“わかりましたか?”って聞いても患者さんはだいたい”わかりました”って言うんですよね。
先輩に聞き方を教えてもらってから、患者さんの反応が変わりました。
③訪問時間が短すぎる
「忙しいから早く終わらせよう」という気持ちが伝わると、患者は心を閉ざします。
最低でも10〜15分は確保し、「急いでいない」という雰囲気を意識して作りましょう。
④その場でメモを取っていない
「覚えているから大丈夫」という過信は危険です。
特に複数の確認事項がある場合、訪問直後に全て思い出せないことがあります。
その場でメモを取ること・訪問後すぐに記録することを習慣にしましょう。
術前・術後訪問はセットで完結する——継続ケアの本質


術前訪問は「術後訪問とセット」で初めて完結します。
術前に顔を合わせた看護師が術後に「手術、お疲れ様でした。無事に終わりましたよ」と声をかけに来る——。
この経験は、患者にとって「ちゃんと気にかけてもらっていた」という実感になります。
手術室看護師と患者の関係性は術中だけでなく、術前・術後を通じて作られるものです。
また、術後訪問では「術中の体位で不快感はなかったか」「傷の状態はどうか」を確認することで、次の手術への改善点が見えてきます。
術前訪問で収集したアセスメントと術後の結果を照合することが、オペ看としての技術向上につながります。
「術前訪問で”背中が痛い”と言っていた患者さんに術後訪問したら”体位が楽でした”と言ってもらえました。術前の情報があったから体位固定を工夫できた。この積み重ねがオペ看としての成長だと思っています。」
手術室勤務8年目のベテランオペ看護師
よくある質問


まとめ——術前訪問を「ただの確認作業」で終わらせないために


術前訪問は、チェックリストを埋める作業ではなく、患者と看護師が手術前に関係を築く重要な看護行為です。
- 訪問前にカルテで術式・アレルギー・内服薬を必ず確認する
- 入室したら座って目線を合わせ、まず自己紹介と訪問目的を伝える
- 情報収集だけでなく「手術室の流れを具体的に説明する」ことで患者の不安が減る
- チェックリストは手元に置き、訪問後に必ず見直す
- 術後訪問とセットで行うことで、継続ケアの質が上がる
今日からできる3ステップ
- 次の術前訪問前に、このチェックリストで事前準備をする
- 訪問中は必ず座って患者の目線に合わせて話す
- 退室前に「明日担当します」と自分の名前を添えて伝える




