「外回りについたのに、麻酔科医が何をしているのか分からなくて、ただ横に立っているだけになってしまった」
「麻酔の勉強をしようと思っても、薬の名前も流れも多すぎて、どこから手をつければいいのか分からない」
手術室に配属されたばかりの頃、麻酔は「専門的で難しいもの」に見えて、身構えてしまいますよね。
でも実は、最初から全部を完璧に覚える必要はありません。
まず「麻酔全体の流れ=地図」を持っておくだけで、現場の見え方がぐっと変わります。
- 麻酔の種類(全身麻酔と局所麻酔)のちがい
- 全身麻酔の流れ(導入→維持→覚醒)と、各段階でオペ看がすること
- よく使う薬の「名前と役割」のざっくり地図
- モニタリングの基本と、新人がつまずくポイント
看護師麻酔って何から勉強すればいいのか、全然わからなくて…。
薬の名前を全部覚えないといけないんでしょうか?



大丈夫。まずは「全体の流れ」と「薬の役割」をざっくり掴めば十分です。
細かい役割や手技は、現場で麻酔科医に確認しながら少しずつでかまいません。
なぜオペ看に麻酔の知識が必要なの?


手術室で麻酔を管理するのは麻酔科医ですが、導入・体位変換・覚醒といった場面で、
そのいちばん近くで介助に入るのがオペ看、特に外回り看護師です。
ここで麻酔の知識があると、「次に何が起きるか」を先読みできるようになります。
先回りして準備できれば、手術はスムーズに進み、なにより患者さんの安全につながるんです。
たとえば「そろそろ導入だから、吸引や挿管の準備を整えておこう」
「出血が増えてきたから、輸液や輸血の指示が来るかもしれない」
こんなふうに一歩先を読めると、言われる前に動けます。
この”先読み”の積み重ねが、手術全体の安全とスピードを支えているんです。
器械出しの立場でも、麻酔の段階がわかると手術の進行を予測しやすくなります。
つまり麻酔の知識は、外回り・器械出しどちらにとっても「現場を読む力」の土台になるんです。
麻酔の種類|まずは全身麻酔と局所麻酔の2つ


細かい分類の前に、まずは大きな2つの枠でざっくり捉えるのがコツ。
| 全身麻酔 | 局所麻酔 | |
|---|---|---|
| 意識 | なくす(眠る) | 保たれる |
| 痛み | 全身で取る | 一部だけ取る |
| 気道確保 | 必要(挿管など) | 基本は不要 |
| 主な手術 | 開腹・開胸など大きな手術 | 下肢・下腹部・体表など |
① 全身麻酔(意識をなくす)
患者さんが眠っている間に手術を行う麻酔です。
自分で呼吸を保つのが難しくなるため、
気道確保(気管挿管やラリンジアルマスクなど)が欠かせません。
大きな手術や、じっとしていられない部位の手術で選ばれるタイプです。
② 局所麻酔(意識はある、痛みだけ取る)
意識は保ったまま、体の一部の痛みだけを取る麻酔です。
効く範囲や持続時間はさまざまで、代表的なものが4つあります。
- 脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔・脊麻):下半身の手術で使われる、効き始めが比較的早いタイプ
- 硬膜外麻酔:術中〜術後の痛み止めにも使える、範囲を調整しやすいタイプ
- 伝達麻酔(神経ブロック):特定の神経の周りに効かせて、その先の痛みを取るタイプ
- 局所浸潤麻酔:切る場所の周りに直接効かせる、いちばん狭い範囲のタイプ
現場では、正式名より短い呼び名で言われることがほとんどです。
麻酔の種類を、呼び名とセットで一覧にしました。
| 種類 | 現場での呼び名 | 効く範囲・特徴 |
|---|---|---|
| 全身麻酔 | 全麻(ぜんま) | 意識をなくす。気道確保が必要 |
| 吸入麻酔 | ガス | セボフルランなどのガスで眠りを保つ |
| 静脈麻酔(TIVA) | ティーバ | 点滴の薬だけで眠りを保つ |
| 脊髄くも膜下麻酔 | 脊麻・腰麻・ルンバール | 下半身。1回の注射で効かせる |
| 硬膜外麻酔 | エピ | 細い管を残し、術後の痛み止めにも使う |
| 脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔 | CSEA | 脊麻とエピを一緒に行う |
| 伝達麻酔 | 神経ブロック・ブロック | 特定の神経の先だけ効かせる |
| 局所浸潤麻酔 | 局麻(きょくま) | 切る場所のまわりだけ効かせる |
脊麻とエピは、横向きで背中を丸める体位で入れることが多いです。
穿刺のあいだ、オペ看は体を支えて声をかけ、動かないように手伝います。
局所浸潤麻酔でも、外回りは目を離さない
局所麻酔の手術は、患者さんが起きているぶん、変化に気づきやすい反面、
麻酔科医がつかないことも多く、観察は外回りの仕事になります。
局所麻酔薬が多く体に回ると「局所麻酔薬中毒」が起きることがあります。
口のまわりのしびれ、耳鳴り、急におしゃべりになる、などが早いサインです。
いつもと様子が違うと感じたら、すぐに術者へ伝えてください。
どの麻酔を選ぶかは、術式や患者さんの状態をふまえて麻酔科医が判断します。
全身麻酔と局所麻酔を組み合わせることも。
まずは「意識をなくすタイプ」と「痛みだけ取るタイプ」がある、と押さえておけば十分です。
全身麻酔の流れ:導入→維持→覚醒


全身麻酔は、大きく「導入」「維持」「覚醒」の3段階。
この流れさえ頭に入れておけば、「今どの段階で、次に何が来るか」が読めるようになります。
① 導入(入眠〜気道確保)
入室してモニターを装着し、点滴ルートを確認したあと、
しっかり酸素を吸ってもらってから麻酔薬で眠りに入ります。
眠る前に酸素を吸ってもらうのは、挿管までのあいだ自分で呼吸できない時間に備えて、
体に酸素をためておくため。
そのうえで気道確保(挿管など)を行い、手術ができる状態を整えます。
この段階でオペ看がすること:まずはモニターの装着、点滴(ルート確保)の介助、
そして患者さんへの声かけ。
眠りに入ったあとの挿管では、喉頭鏡や挿管チューブを麻酔科医に手渡し、
指示に合わせてカフを膨らませます。
輪状軟骨圧迫は、麻酔科医の指示があるときだけ。
導入は一気に進むぶん、流れを知っておくと落ち着いて動けます。



導入で「この介助をやってみたい」というのがあれば、事前に先輩へ伝えておくのがおすすめです。
何も言わないと、先輩が先にやってしまうこともあります。
「次は挿管介助をしたいです」と一言添えるだけで、経験をぐっと積みやすくなりますよ。
導入のあいだ、外回りは患者さんから離れない
導入は、短い時間に一番多くのことが起きる場面です。
ここで物を取りに部屋を空けると、
呼ばれたときに誰もいない、ということが起こります。
・入眠までは、患者さんのそばで声をかける
・麻酔科医の手元が見える位置に立つ
・頼まれそうな物は、導入前に手の届く所へ出しておく
「何をすればいいか分からない時間」ではなく、
「呼ばれたらすぐ動ける位置にいる時間」です。
② 維持(手術中)
手術中は、麻酔薬を使って眠りと痛みのない状態を保ちます。
この間も、患者さんの状態は刻一刻と変わっていくんです。
この段階でオペ看がすること:出血量・尿量・体温をこまめに確認しながら、
同じ体位で圧がかかり続けないよう除圧の時間も管理します。
特に出血が多くなってきたら、早めに麻酔科医へ報告。
「いつもより多いかも」——その小さな気づきを早く共有できるかどうかが、
患者さんの安全に直結します。
③ 覚醒・抜管
手術が終わりに近づくと麻酔を減らし、
自発呼吸や意識の回復を待って気道確保の器具を外します(抜管)。
そのあとは、回復室や病棟へバトンタッチ。
この段階でオペ看がすること:抜管の準備や吸引、患者さんへの声かけ、急な変化に備える姿勢。
覚醒は”最後のヤマ場”でもあるので、気を抜かずに見守ります。
よく使う薬を「名前と役割」だけ覚える


薬は種類が多くて圧倒されがちですが、まずは「何のための薬か(役割)」だけ押さえれば十分。
用量や選択は麻酔科医の指示と各施設のプロトコルに従うので、
新人のうちから暗記する必要はありません。
ここでは役割ごとに整理していきます。
その軸になるのが、麻酔の3要素です。
麻酔は「鎮静(眠らせる)」「鎮痛(痛みを抑える)」
「筋弛緩(体の力を抜く)」の3つの組み合わせで成り立っていて、
薬もこの3つの役割に対応して分かれています。
どの薬も「鎮静・鎮痛・筋弛緩のどれを担当しているか」で見れば、ぐっと覚えやすくなりますよ。
薬は「一般名」と「商品名」がセットで飛んできます
現場では、同じ薬が日によって違う呼ばれ方をします。
・プロポフォール / ディプリバン
・レミフェンタニル / アルチバ
・ロクロニウム / エスラックス
どちらで言われても同じ薬だと分かることが、
名前を全部覚えることより先に効きます。
自分の部屋でよく使う5つだけ、両方の呼び方で覚えてください。
眠らせる薬(静脈麻酔薬・吸入麻酔薬)
意識をなくし、眠った状態を保つための薬です。
点滴から入れるタイプ(静脈麻酔薬)と、呼吸から入れるタイプ(吸入麻酔薬)があります。
例)静脈麻酔薬
プロポフォール(ディプリバン)/ミダゾラム(ドルミカム)
/チオペンタール(ラボナール)
例)吸入麻酔薬:セボフルラン(セボフレン)/デスフルラン(スープレン)
力を抜く薬(筋弛緩薬)と戻す薬(拮抗薬)
挿管や手術のために体の力を抜く薬が筋弛緩薬、その働きを戻すのが拮抗薬です。
覚醒のタイミングで拮抗薬を使うことがあります。
例)筋弛緩薬:ロクロニウム(エスラックス)/スキサメトニウム(サクシン・レラキシン)
例)拮抗薬:スガマデクス(ブリディオン)/ネオスチグミン
痛みを抑える薬(鎮痛薬)
手術中・術後の痛みを抑えるための薬です。眠らせる薬とセットで使われます。
例)オピオイド鎮痛薬:レミフェンタニル(アルチバ)/フェンタニル/モルヒネ
例)局所麻酔薬(区域麻酔・浸潤に)
リドカイン(キシロカイン)/ロピバカイン(アナペイン)
/ブピバカイン(マーカイン)
大切なのは、
それぞれの薬が「眠らせる/力を抜く/痛みを抑える」のどれを担当しているかを掴むこと。
名前は現場で使ううちに自然と覚えていきます。
モニタリングの基本:何を見ている?


麻酔中は、患者さんの状態をいくつかのモニターで見守ります。
数値の細かい解釈は麻酔科医と共有しながらでOKですが、
「何を見ているか」を知っておくと安心です。
- SpO2(経皮的酸素飽和度):体に酸素が足りているか
- 心電図:心臓のリズム
- 血圧:全身に血液が巡っているか
- EtCO2(呼気終末二酸化炭素/カプノグラフィ):ちゃんと換気できているか・挿管の位置
- 体温:低体温になっていないか
たとえば体温は、低いままだと術後の震えや合併症、覚醒の遅れにつながることがあるため、
加温マットや温めた輸液で保温します。
それぞれのモニターは「体の”今”を映す窓」——見る意味がわかると、
数字がただの数字でなくなります。
アラームが鳴ったら、まず必ずモニターを確認するのが鉄則です。
いちばん大切なのは「なぜ鳴ったのか」を理解すること。
数値の変化への対応は、麻酔科医と連携しながら覚えていきましょう。



アラームは、鳴ったらまず消音することが多いです。
でも「なぜ鳴ったのか」がわからないまま消すのはNG。
わからないときは、その場で先輩か麻酔科医に確認しましょう。
「これは何のアラームですか?」と聞くのは新人の特権です。
その都度つぶして理解していくことが、いちばんの近道ですよ。
麻酔まわりの用語一覧|道具・薬・モニターの呼び名24語


導入のあいだは、道具や薬の名前が短い言葉で次々に飛んできます。
この記事の上で出てこなかった言葉を、場面ごとにまとめました。
気道確保の道具
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 挿管チューブ | 気管に入れて、呼吸を管理する管 |
| カフ | チューブの先の風船。空気を入れて漏れを防ぐ |
| スタイレット | チューブの形を整えるための芯 |
| スパイラルチューブ | 折れにくいチューブ。体位で首が曲がる手術など |
| ダブルルーメン | 左右の肺を分けて換気するチューブ。呼吸器外科 |
| ラリンジアルマスク | のどにかぶせる器具。略して「ラリマ」 |
| 喉頭鏡 | のどを広げて、声門を見る道具 |
| ビデオ喉頭鏡 | カメラ付きの喉頭鏡。画面を見ながら挿管する |
| バイトブロック | チューブを噛まないように、口に入れておく |
| エアウェイ | 舌が落ちて、空気の通り道がふさがるのを防ぐ |
ほかによく聞く薬
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| エフェドリン | 血圧を上げる(昇圧薬) |
| フェニレフリン | 血圧を上げる。商品名はネオシネジン |
| アトロピン | 脈が遅くなったときに上げる |
| ダントロレン | 悪性高熱症の治療薬。商品名はダントリウム |
モニター・ライン
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| BIS(ビス) | 脳波から、眠りの深さを数字で見る |
| TOF(ティーオーエフ) | 筋弛緩薬がどれくらい効いているかを見る |
| Aライン | 動脈に入れる管。血圧を連続で測り、採血もできる |
| CV(中心静脈カテーテル) | 太い静脈に入れる管。薬や輸液を確実に入れる |
| 尿量 | 膀胱留置カテーテル(バルーン)で見る。脱水や出血の目安 |
場面の言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| マスク換気 | 挿管の前に、マスクで酸素を送ること |
| 迅速導入(RSI) | 胃に内容物がある人に、素早く挿管して誤嚥を防ぐ。現場では「クラッシュ」 |
| シバリング | 麻酔から覚めたときの体のふるえ |
| 悪性高熱症 | 麻酔薬がきっかけで、急に体温が上がるまれな合併症 |
| 局所麻酔薬中毒 | 局所麻酔薬が多く回ったときの症状(下で説明) |
略語や手術全体の言葉は、手術室の略語・用語集で引けます。
新人がつまずくポイントと覚えるコツ


用語・略語がわからない
麻酔まわりは略語が多く、最初はそれだけで難しく感じます。
わからない言葉は、その日のうちに調べてメモ。
手術室の略語・用語集も、そばに置いて辞書代わりに使いましょう。
麻酔科医の指示スピードについていけない
導入は特に展開が早く、指示が続くと焦ってしまいます。
ここで効くのが「流れの先読み」です。
導入→維持→覚醒の段階を頭に入れておくと、「次は挿管だな」と身構えられて、
指示に振り回されにくくなります。
緊張で頭が真っ白になる
誰でも最初はそうです。
全体の見取り図を持っておくと、目の前で起きていることを「今はここ」と位置づけられて、
パニックになりにくくなります。
完璧を目指さず、まずは流れをなぞるところから始めましょう。
もっと深めたい人へ


この記事で全体像をつかんだら、次は少しずつ深めていきましょう。
- 体系的に学びたいなら:麻酔看護のおすすめ本(麻酔・薬剤・検査値の3冊)(外回り目線で選んだ3冊を紹介しています)
- 1年目の全体像を知りたいなら:手術室看護師1年目の教科書
- キャリアとして麻酔管理に関わりたいなら:特定行為研修(術中麻酔管理領域)ガイド/周術期管理チーム認定看護師とは
よくある質問


まとめ:まず”地図”を持てば、麻酔はこわくない


麻酔は、最初から全部を完璧に覚えようとすると圧倒されてしまいます。
でもここまで見てきたように、必要なのは細部の丸暗記ではなく、全体をつかむ「地図」です。
「大きく2種類」「導入→維持→覚醒の流れ」「薬は役割で捉える」
——この3つを持っておくだけで、
現場の見え方は大きく変わります。
そして、薬に迷ったら「鎮静・鎮痛・筋弛緩」の3要素に立ち返る。
手術中は、一歩先を読んで動く。
この積み重ねが、麻酔科医の頼れるパートナーへと自分を育ててくれます。
知識は「言われる前に動ける安心感」に変わり、
それはそのまま患者さんの安全につながっていきます。
いちばん大切な心構えは、わからないことをわからないままにしないこと。
鳴ったアラームの意味も、初めて見る薬も、その場で先輩や麻酔科医に確認していけば大丈夫です。
「これは何ですか?」と聞けるのは、新人だけに許された特権でもあります。
細かいことは、現場で確かめながら少しずつでかまいません。
焦らず、一つずつ、自分のペースで進んでいきましょう。



最初は誰でも、麻酔の場面で緊張します。
でも大丈夫。今日この地図を手にしたあなたは、もう”ただ立っているだけ”ではありません。
一つずつ、一緒に育てていきましょうね。
手術室の勉強、次の一歩
新人オペ看が、段階ごとに使えるものを並べました。
まずは無料のものから試してください。
② 980円で、器械出しを体系的に
note「器械出しが『怖い時間』から『戦える時間』に変わるまで」
器械の覚え方・術式の予習・先生のクセ・先読み・失敗した日の立て直しまで。
無料部分だけでも、器械を5つの役割で分ける考え方と
配属から14日間の勉強の進め方が読めます。




