「コッヘル持ってきて」と言われて、
一瞬フリーズしたことはありませんか?
手術器械は形も名前も似たものが多く、
新人のうちは覚えられなくて当然です。
この記事では、10年以上オペ室で働いてきた私が、
紛らわしい定番器械の見分け方と、
最短で覚えるためのコツをまとめました。
結論|器械は丸暗記ではなく「分類×用途×術式」で覚える

器械を1本ずつ丸暗記しようとすると、
数が多すぎて必ず途中で心が折れます。
先に知っておいてほしいのは、覚え方には順番があることです。
- 分類:止血・把持・切離・展開・縫合のどれに使う道具か
- 用途:その器械で「何をする場面」なのか
- 術式:明日の担当手術に出てくる器械から順に
この3つをセットにすると、名前だけの暗記より圧倒的に定着します。
ここから具体的に見ていきましょう。
手術器具の名前一覧|分類ごとに34本

手術器具の名前は、まず分類ごとに全体を見渡すと覚えやすくなります。
「止血・つかむ・切る・広げる・縫う」のどれに使うかで、5つに分けました。
呼び名は施設や術者によって違います。
自分の施設の呼び方は、ノートに並べて書いておくのがおすすめです。
止血に使う鉗子
| 名前 | 何に使う | 見分け方 |
|---|---|---|
| ペアン | 止血・組織をつかむ | 先端に鉤がない |
| コッヘル | 筋膜など硬い組織をつかむ | 先端に鉤(かぎ)がある |
| モスキート | 細い血管の止血 | 小型で細い。略して「モス」 |
| ケリー | 血管のまわりの剥離・止血 | ペアンより彎曲が強め |
| 直角鉗子 | 血管や組織の裏に糸を通す | 先端が直角に曲がっている |
| ミクリッツ | 開腹・閉腹のとき腹膜をつかむ | 腹膜鉗子とも呼ぶ |
| ブルドッグ鉗子 | 血管を一時的に止める | 指先ほどの小さなバネ式 |
つかむ・持ち上げる(鑷子・把持鉗子)
| 名前 | 何に使う | 見分け方 |
|---|---|---|
| 有鉤鑷子 | 皮膚・筋膜をつかむ | 先端に鉤がある |
| 無鉤鑷子 | 血管・腸管をつかむ | 先端に鉤がない |
| アドソン | 皮膚縫合のときの細かい操作 | 小型で先が細い。有鉤と無鉤がある |
| ドベーキー | 血管をつかむ | 先端に細かい溝。組織を傷めにくい |
| アリス | 組織をつかんで持ち上げる | 先端に細かい歯が並ぶ |
| バブコック | 腸管など管の臓器を包んで持つ | 先端が輪のように丸い |
| 布鉗子(タオル鉗子) | 覆布(ドレープ)を留める | 先端が鋭く、刺して留める |
切る(剪刀・メス)

| 名前 | 何に使う | 見分け方 |
|---|---|---|
| メッツェン | 組織を切る・剥離する | 刃が細く長い。曲のみ |
| クーパー | 糸を切る・厚い組織を切る | 刃が太く短い。曲と直がある |
| 形成剪刀 | 皮膚・細かい組織を切る | 小さくて薄い刃 |
| 眼科剪刀 | ごく細い組織 | いちばん小さい |
| メス(10番) | 皮膚切開 | 大きめの曲刃 |
| メス(11番) | 刺す・小さな切開 | 先が尖った三角 |
| メス(15番) | 細かい切開 | 小さい曲刃 |
視野を広げる(鉤・開創器)
| 名前 | 何に使う | 見分け方 |
|---|---|---|
| 筋鉤 | 皮膚や筋肉を引いて視野を作る | L字の平たい板状 |
| 鋭鉤 | 皮膚を引っかけて引く | 先が鋭い爪。単鋭鉤・双鋭鉤など |
| 腸ベラ | 腸を押さえて奥の視野を作る | 平たく長いヘラ状で、曲げて使える |
| 開創器(リトラクター) | 広げたまま固定しておく | 手を離しても開いたまま。ゲルピーなど |
縫う(持針器・針)
| 名前 | 何に使う | 見分け方 |
|---|---|---|
| ヘガール | 針を持って縫う | まっすぐで、指を入れる輪がある |
| マチュー | 針を持って縫う | 輪がなく、握り込んで使う |
| 丸針 | 腸管・血管など柔らかい組織 | 断面が丸い |
| 角針 | 皮膚など硬い組織 | 断面が三角で、刃がある |
| スキンステープラー | 皮膚を留める | ホチキスのような形 |
その他(器械台でよく呼ばれるもの)
| 名前 | 何に使う | 見分け方 |
|---|---|---|
| 吸引管(サクション) | 血液や洗浄液を吸う | 筒状。先の太さが用途で違う |
| ツッペル | 組織をこすって剥離する | 小さなガーゼの玉を鉗子で挟む |
| 電気メス(モノポーラ) | 切開と止血 | ペン型。対極板が必要 |
| バイポーラ | 挟んだ部分だけ止血する | ピンセット型 |
一覧を、手元に置いておく
器械・糸・針・はさみ・メスなどの表は、早見表まとめにまとめています。
スマホに保存しておくと、器械台の前で確認できます。
「エッセン」「リガシュア」などの呼び名は、手術室の略語・用語集で引けます。
紛らわしい定番器械の違いと見分け方
新人がまず混乱する「そっくりさん」を整理します。
ここだけ押さえれば、器械台の景色が変わって見えるはずです。
私が実際に見ているのは、サイズと、先端に鉤があるかどうかの2つだけです。
この2つで、定番の鉗子はほとんど区別できます。
コッヘルとペアンの違い|鉤(歯)があるかないか
見分けるポイントは先端です。

- コッヘル:先端に鉤(歯)がある。筋膜などをしっかりつかむ
- ペアン:先端に鉤がない。止血や組織の把持に幅広く使う
「コッヘルは噛みつく(鉤あり)」と覚えると忘れません。
渡す前に先端を見る癖をつけると、取り違えが激減します。
ただ、現場でいちばん困るのは閉じた状態で台に並んでいるときです。
この2本はサイズ感がほとんど同じで、
先端が閉じていると鉤が隠れて、見分けがつきません。
迷ったら、手に取って先端を開いて確かめてください。
台に置くときに向きを揃えておくと、探す時間も減ります。
なぜ、この1本だけは間違えてはいけないのか
ペアンを使う場面でコッヘルを渡すと、
鉤が組織に食い込んで、臓器を傷つけてしまうことがあります。
ここを強く言われるのは、性格の問題ではありません。
先輩が渡される器械を必ず見ているのも、同じ理由です。
ペアンとケリーの違い|彎曲の強さと大きさ
どちらも鉤なしの止血鉗子で、シルエットはそっくりです。
ケリーのほうが彎曲(カーブ)が強めで、やや大ぶりなものを指すことが多いです。
ただし、この2つは施設によって呼び分けの基準が揺れます。
ケリーやリスターは、職場が変わると呼び方も変わりました。
逆にペアン・コッヘル・モスキートは、どこでもほぼ同じ呼び方です。
「うちの病院でどれをケリーと呼ぶか」を先輩に確認するのが、
実は一番の近道です。
メッツェンとクーパーの違い|組織を切るか、糸を切るか
剪刀(ハサミ)の2大巨頭です。
- メッツェンバウム:刃が細く繊細。組織の剥離・切離に使う
- クーパー:刃がしっかり厚い。糸切りなど硬いものに使う
基本は「組織はメッツェン、糸はクーパー」と覚えておくと迷いにくくなります。
ただ、メッツェンで糸を切る場面もあり、使い分けは施設や術者によって違います。
鑷子(セッシ)|有鉤・無鉤・アドソン
- 有鉤鑷子:先に爪がある。皮膚など丈夫な組織をつかむ
- 無鉤鑷子:爪がない。臓器や血管など傷つけたくない組織に
- アドソン:短くて先が細い。皮膚縫合など細かい操作に
鑷子も考え方はコッヘルと同じで、
「鉤があるか・ないか」+「どの組織に使うか」で整理できます。
ここで挙げた器械は、1枚の早見表にもまとめてあります。
手元で見返したい人はこちらからどうぞ。
▶ オペ看の早見表まとめ|糸・針・器械・はさみ・メス・手術体位
全部いっぺんに覚えなくて大丈夫
ここに挙げたのは、あくまで「最初に混乱しやすい代表選手」だけです。
この数本の見分けがつくようになるだけで、
器械台の上の「知らない銀色の集団」が、意味のある道具に変わっていきます。
最短で覚える5つのコツ

① 役割で分類して覚える
手術器械は何百種類もありますが、役割はたった5つしかありません。
- 止める(止血鉗子)
- つかむ(把持鉗子・鑷子)
- 切る(剪刀・メス)
- 広げる(開創器・開瞼器など)
- 縫う(持針器・縫合糸)
新しい器械に出会ったら、まず「これは5つのどれ?」と考えます。
引き出しを5個に分けておくと、後から入れる知識が迷子になりません。
② 名前と用途をセットで覚える
「ペアン=あの形」だけで覚えると、すぐ忘れます。
「ペアン=出血点を挟んで止血する道具」まで覚えると、
術野で使われる場面と記憶がつながります。
器械の名前は「単語帳」ではなく「動画」で覚えるイメージです。
③ 担当術式の器械リストから覚える
全器械を網羅する必要はありません。
明日入る手術のセットリストに載っている器械だけ、前日に確認します。
1術式ぶんなら20〜30本程度なので、現実的に覚えきれる量です。
術式ごと・場面ごとの予習のやり方は、こちらにまとめています。
④ 自分の器械ノートを作る
おすすめは「1術式1ページ」の器械ノートです。
- 器械名(正式名称+うちの病院での呼び名)
- 特徴のメモ(鉤あり・カーブ強め、など一言)
- 使う場面(どのタイミングで誰が使うか)
院内で器械の写真が撮れない施設も多いと思います。
その場合は下手でもいいので、特徴だけ捉えた簡単なイラストと、
「見分けポイントの一言」を残しておくと十分機能します。
⑤ 渡すときに名前を声に出す
器械出しで渡す瞬間に、心の中でもいいので名前を唱えてみてください。
「見る・触る・言う」を同時にやると、記憶への残り方が全く違います。
おかゆ先輩に「体で覚えろ」と言われてから、
少しずつ手が先に動くようになりました。
見る・触る・言うのセットは、本当に効きます。
器械出しの動きそのものに不安がある人は、こちらもどうぞ。
▶ 器械出しが苦手・できないオペ看へ|つまずく原因と克服のコツ
施設ごとの「呼び名」問題とのつき合い方


器械には正式名称のほかに、現場だけで通じる略称やニックネームがあります。
転職や異動をすると、同じ器械が別の名前で呼ばれていて戸惑うこともあります。
ノートに「正式名称/うちの呼び名」を並べて書く
対策はシンプルで、ノートに両方を並べて書いておくことです。
セットで覚えておけば、環境が変わっても応用が利きます。
新しい職場では、最初に聞いてしまうのが正解
入職・異動したての時期は、遠慮せず
「この病院ではなんて呼びますか?」と聞いてしまいましょう。
最初の1週間なら、何度聞いても不自然ではありません。
器械にかぎらず、オペ室で飛び交う略語・現場用語は、
こちらの用語集にまとめています。
▶ 手術室の略語・用語集|オペ室で飛び交う言葉を新人向けに解説



私も転職したとき、同じ器械なのに呼び名が違って戸惑いました。
ノートに両方書いておいたら、1か月ほどで慣れましたよ。
器械を覚えるのに役立つ本


完全保存版! 手術室の器械・器具210
器械を写真で確認しながら覚えたい人には、この1冊が定番です。
現場で「あの銀色のやつ…」となったとき、辞書のように引けます。
そのほかの手術看護の参考書は、新人向けに10冊を厳選して紹介しています。
▶ 手術看護のおすすめ本・参考書10選|器械出し・外回り・麻酔まで
そもそも、覚えられないのはあなたのせいじゃない


似た形の器械が多すぎる
コッヘル・ペアン・ケリーはパッと見ほぼ同じ形です。
並べて見比べる機会がないまま本番が来るので、
混乱するのは自然なことです。



私も新人の頃は毎晩ノートに書いて、翌朝には半分忘れてました。
コッヘル・ペアン・ケリー、似たやつが多すぎて
頭の中がぐちゃぐちゃになってたんです。
教わる器械の数が、とにかく多い
1術式で20〜30本、全科なら数百本。
そもそも一度に覚えきれる量ではないので、
時間がかかって当然です。
覚える前に本番が来る
ゆっくり暗記する時間はもらえないまま、
器械出しデビューの日はやってきます。
「覚えてから現場に立つ」が不可能な環境なので、
覚えながら走るしかないのです。
なお「覚えられなくてつらい」「向いてないかも」という気持ちの面は、
こちらの記事で詳しく書いています。
▶ 「オペ看、覚えられない…」のは当たり前|つらい時期の抜け出し方
手術器械の覚え方でよくある質問


この記事の内容を「実行できる形」にまとめました
配属からの14日間プログラム・術式ノートの実物・先生のクセ攻略メモまで、
器械出しの攻略手順を1冊にした有料noteを公開しています。
まとめ|見分けがつく器械が1本増えるたび、仕事は楽になる


手術器械は、丸暗記ではなく
「分類×用途×術式」で覚えるのが最短ルートです。
器械の名前に戸惑うのは、みんな同じ。
手術室看護師あるある40選でも、器械出しの「あるある」に思わず頷けるはずです。
- コッヘルとペアンは「鉤の有無」で見分ける
- 「組織はメッツェン、糸はクーパー」
- 覚えるのは明日の術式に出る器械だけでいい
- ノートには正式名称と院内の呼び名を並べて書く
昨日まで「銀色の何か」だった器械の名前が1つ分かるようになる。
その積み重ねの先に、器械出しが「怖い時間」から
「面白い時間」に変わる日が来ます。
焦らなくて大丈夫。今日の1本から始めましょう。
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